頭領の箱



「そこっ!!」
ロイドは叫び、眼前のダルマを手にとって激しく揺する。
当然、ワッシャワッシャと揺さぶられても、ダルマはダルマのまま何の変化もない。
「くっ!これも違うのか!?」
ダルマを放り投げ、ロイドは次の獲物を探し出す。
「……ここにはもういないと思うけどねぇ」
ロイドが投げたダルマをキャッチし、元の場所に戻しながら呆れ顔でそう言うしいな。
「いや。ワンダーシェフは絶対にいる!俺達が見落としてるだけなんだっ!!」
「そうかい?あたしはどっちかって言うとあのコックってやつらの方が怪しいと思うよ……」
しいなが『正解』を口にするが、目を皿のようにして部屋中を調べるロイドの耳には届かない。
そう。
ロイドは未だコンプリ出来ない料理を、必死で探しているのだ。
しいなに頼み、怪しげなものがドッサリある頭領の家を借りきってまで。
「っ!?あれかっ!!」
ロイドは掛け軸を剥ぎ取り、勢いよく天に掲げる。
「あっ、そんなに荒く扱ったらっ!」
ロイドの手から数十万ガルドはする掛け軸を奪い、しいなの背筋に冷たい汗がつたう。
「なんだ、これもハズレか……ん?」
掛け軸を剥がした部分の壁に、大きな四角い穴がある事に気付くロイド。
手を入れてみるとその穴の奥に何か四角いものがある。
「何やってるんだい?」
しいなは、大きな穴に両手をつっこみ頭まで入りそうな勢いのロイドを見咎める。
「いや、この穴の奥に何か……よっと……」
ゴソリ、とロイドが取り出したのは30cm近くある細長い箱であった。
「なんだこれ?」
「それは!?」
厳重に符で封印が施されているその箱を、ロイドはそれと気付かずに開けようとする。
「ロイドっ!その箱を開けちゃいけないよっ!!」
しいなが厳しい声で制止する。
しかしそれは僅かに遅く、パシリ、と乾いた音と共に符は破れてしまった。

しいなが恫喝した。
だがもう遅い。
見たい。俺は箱の中がどうしても見たい。
俺の思考は闇の中へ押し込められ、そんな思いだけが体を突き動かす。
ぱしり、と古紙特有の乾いた音が立ち、年来この箱を封じ続けていただろう忌々しい符が裂ける。
箱が開いた。
箱の中には、茶色い干物みたいなのがぴったりと入っていた。
「ほう」
俺は何か言おうとしたが、それだけしか言葉が出ない。
その、完全に乾燥しきった何かは、植物の茎を寄り合わせて筒状にしたものらしかった。
『何か』は、外気に触れたせいだろうか、奇妙な事にその乾いた表面がみるみる水気を湛えだし、ぱりぱりと固まっていたのがどんどん柔らかそうになってゆく。
「ひご……ずいき……」
しいなが苦しそうな声で何事かを呟く。
何故だか分からないが俺は、それがこの『何か』の名前の事だと理解できた。
見れば、しいなは瘧にでもかかったように体を諤諤と震わせながら、陽炎のような動きでこちらに近づいてくる。
俺のすぐ目の前に立ち、身じろぎひとつする間もなく箱の中身を鷲掴みにする。
水で戻した乾物を握ったみたいに、『ずいき』としいなの指の隙間からぷちゅ、と水気が滴り落ちる。
突然、しいなは息せき切って着ている物を全て脱ぎだす。
いきなりの事に俺は呆然と見ている事しかできない。
否。
俺の心は既に俺の物ではなくなり、俺の体は一個のモノになっていた。
ただのモノでしかない俺を気にもとめず全裸になったしいなは、己の秘所へと『ずいき』を運ぶ。
「ぁああ」
短く、しかし大きな喘ぎ声と共に、彼女の秘所が『ずいき』の大半を飲み込む。
その身が歓喜と悦楽の為に朱に染まり、しいなの唇はだらしなくひらかれる。
体内の異物を秘肉でしっかりと咥えこみ、己が肉芽を指で弄ぶ。
ひとしきりその感触を味わい、彼女は『ずいき』を動かし始める。
「ぁあぅあぁ」
ゆっくりと引きずり出し、
「っふぁ!」
一気に貫く。
「んぅ、ぅう、っうん」
奥底へとぐいぐい押し付け、
「っはあぁん」
またゆっくりと引き戻す。
彼女の指はせわしなく肉芽をつまみ、さすり、捏ねまわす。
阿呆のようにひらいた口からは、舌が虚空を舐めようとひくひく痙攣している。
その瞳には何も映っておらず、しかしその表情は喜びに、幸せに満ち溢れていた。
ああ、と俺は納得した。
彼女は今、行き着いているんだな。
彼岸に。
向こう側――そこには幸せが。
俺は、何だか酷く――
彼女が羨ましくなってしまった。
しいなは甘美なる誘惑に身を任せ、その快感の波に埋もれている。
俺の目の前で、享楽に耽り痴態を晒している。
甘い声で啼き、秘所からは淫靡な液体が伝い落ちている。
その光景を見ている内に俺の体に心が戻り、心が体を動かし始めた。
俺はズボンの前を開け、陽物を取り出す。
心の戻った体はみるみる反応し、陽物は見事なまでに怒張する。
彼女の眼前へとそれを突きつけると、
「あはぅ」
と一声啼き、菓子か何かのようにおいしそうに口に含む。
じゅぷ、ちゅぷ、と唾液を纏わりつかせながら、丹念に唇で扱きあげる。
舌が陰茎の先端をぐるぐると這い回り、ときおり強く吸いあげられる。
だが、彼女は俺がそれだけで満足しないのに気付いたらしい。
「んんぅ、あは」
しいなは陰茎の上にねばついた唾液をだらだらと垂れ零し、豊満な胸の谷間に陰茎をうずめる。
片手で、両の乳房を包み込むようにして寄せ、ゆさゆさと上下に動かしだす。
唾液でぬめる胸が陰茎を擦りあげ、痺れるような快感が脊髄を伝う。
しいなはもう片手で器用に『ずいき』を出し入れさせながら、胸の谷間から顔を出す亀頭に舌を伸ばしてぬるぬると舐めまわす。
彼女は先走りを掬い取り、満足そうにそれを飲み下す。
俺の下半身は益々痺れたようになり、眼前に霞がかかったように意識がはっきりしなくなる。
たぷたぷと、しいなの胸が波打つ度に電流が走り、彼女が亀頭を舐める音や『ずいき』が彼女の秘所を出入りする音が、一層大きく一層卑猥に増幅されて脳を溺れさせる。
「っああ!もう!」
堪えられない。
陰茎の先端から、熱く、粘質な液体が勢いよく噴き出し、しいなの顔や胸が白濁にまみれる。
「んっ、ぁはっ」
彼女は陰茎を掴み、その先端を自分の胸へぐりぐりと押し付ける。
溢れ出す精液は彼女の胸をさらに汚し、それを感じながら彼女は『ずいき』を激しく動かす。
「っ!かはっ!!」
悲鳴に近い声を上げ、彼女の体がびくんと大きく跳ねる。
震え、ゆらゆらと震え。
彼女はゆっくりと地に伏す。
その顔は、まるで憑物が落ちたように安らかだった。

「……ここミズホの頭領は、ああいった妖物怪異を封じたりもするんだ」
「……」
『ずいき』を箱に納め、外から符で封印し直しながら話すしいな。
「それを、無造作に封印を解いたりして!下手すりゃ、死んでたかも知れないんだよ!」
「……ま、まあ、命があっただけ良かったよな」
出来るだけ軽い口調で相槌を打つロイド。
「良くないっ!!」
バシッバシッビシッ
符で思いっきり攻撃するしいな。
「あんたのせいで、あんな大人の玩具なんかに操を奪われたんだからね。ちゃ〜んと責任は取ってもらうよ」
「でぇええ!?せっ、責任って……」
「ミズホ流の婚礼は大変だよ。さっそく準備しないとねぇ」
クスクス笑うしいな。しかしその目は全く笑っていなかった。
「そ、そんなぁ〜!!」
ロイド・アーヴィング、17才。
ワンダーシェフ探索中に討ち死に。
真の世界再生を果たす事は、ついに出来なかったという……



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