阿寒湖地獄変



「わあっ、マリモだマリモだ!」
由子さんがうれしそうにはしゃぐ。
「気になってた所」、そういってやってきたのはマリモで有名な阿寒湖だった。
一度ちゃんと「生きてる!」ってわかるマリモを見たかったのだそうだ。
しかし、それにしても……
「でも、やっぱり生きてるか謎だよね」
「ほんと。こうしててもちっとも動かないし……」
……そんな、動物じゃないんだから。
「……あっ!」
不意に由子さんが声をあげる。
「え?どうしたの!もしかして動いた!?」
「ううん……あ、あれ……」
由子さんが指差すその先には……
阿寒湖に浮かぶ、全高30mはあろうかという巨大マリモの姿があった!
「そんな!さっきまでは何もなかったのに!?」
「宇宙怪獣……」
僕の叫びに答えたのか、由子さんがよくわからない事をつぶやく。
と、唐突にヘリの音やジェット機の爆音、キャタピラや地響きのような音が聞こえ出す。
「自衛隊だ!」
「自衛隊が出動してきたぞ!」
近くにいた人々が言うとおり、ジェット機や大型のヘリ、戦車などがこっちの方へと向かってきているのが見える。
中でも際立っているのがパラボラアンテナに足がはえたような物体だ。
巨大マリモと同じくらい背の高いソレはズシン、ズシンと地響きを立てながら戦車の後ろに続いている。
「あれは自衛隊の秘密兵器・超電磁粒子砲……いつだったか月村君が自衛隊の基地を見学に来た時、私が冗談めかして言っていたやつよ」
「ほ、本当にあんなものがあったなんて」
僕は驚くというより呆れかえる。
「こうなった以上説明するけど、私達千歳基地の自衛隊員の本当の任務は宇宙からの侵略者を撃退する事なの」
由子さんは遠い目をして語りだす。
「ずっと昔からこんな日が来るのは予測されてたわ。そのために私達は血の滲むような訓練をしてきた……」
そうこうしているうちに、超電磁粒子砲とやらは巨大マリモのすぐ近くまで近づいていた。
それが何者かを理解したのか巨大マリモは超電磁粒子砲へと向き直り、といっても見た目がマリモなので本当に向き直ったのかよくわからないが、陸へとあがる。
最初の被害者となったのは、その下敷きとなったマリモソフトクリーム屋さんだった。
即座に、自衛隊からの一斉射撃が行われる。
爆音、そして白煙が立ち込める。が、案の定巨大マリモは傷ひとつなくそこにたっていた。
「マーリーモー」
不敵な笑い声を上げる巨大マリモ。
「通常の重火器は効果ないみたいね。けど、超電磁粒子砲なら!」
僕の横で由子さんが叫ぶ。
その声が届いたのか、超電磁粒子砲がズイ、と巨大マリモの前に進み出る!
にらみ合う両者。
「マーリーモー」
威嚇の声を上げる巨大マリモ。
「いっけー!粒子キーックッ!!」
由子さんの叫びにあわせ、超電磁砲がその逞しい二本の足で巨大マリモに飛び蹴りを放つ!
「マーリーモー」
たまらずよろめく巨大マリモ。
「そこだぁ!超電磁回転!!」
超電磁砲が高速で回転しながら巨大マリモに体当たりする!
「マーリーモー」
付近の土産物屋が、吹き飛んだ巨大マリモの下敷きになる。
「とっどめぇ!超電磁粒子砲発射!」
超電磁砲の頭部パラボラから、謎の怪光線が射出される!
「マリモー!」
巨大マリモの体が金色に輝きだす!
チュドーン!!
とてつもない音と爆風が起こり、僕達はその場に身を伏せた!

「う、うう」
僕は体を起こす。吹き付けてきた砂利か何かで擦り傷は出来ていたが、別段大きな怪我はないようだ。
「由子さん、大丈夫だった?……あれ?由子さん?」
まわりを見ても由子さんの姿は見当たらなかった。
まさか!今の爆風で吹き飛ばされたんじゃ!?
「由子さーん!」
僕は思わず大声で呼びかける。
「マーリーモー」
……僕はさっきまで見ていた方を振り返る。
巨大マリモは、先ほどの場所にそのままたっていた。
「そんなバカな!じゃあ今の爆発は一体」
「マーリーモー」
僕の声が聞こえたわけじゃないだろうが、巨大マリモがジロリと僕の方を睨みこっちへと移動を始めた。
戦車が、超電磁粒子砲が行く手を阻もうとしてくれたが、巨大マリモは戦車を踏み潰し超電磁粒子砲をなぎ倒し、まっすぐ僕めがけて移動を続ける。
……もう駄目だ。僕も、北海道も、いやきっと日本さえも。
観念して目をギュッと閉じる。
……しかし、いつまで経っても巨大マリモは僕を押し潰さない。
「?」
チラッと目を開けてみると、巨大マリモと同じくらい巨大な人のようなものが僕を庇うように立っていた!
銀色のウェットスーツを着込んだような質感の肌に赤いラインが何本も走り、猫を思わせる瞳、膨らんだ胸が特徴的な謎の巨人。
僕は何故か、初めて見るその巨人に親しみを感じた。
「ヘウアッ」
巨人が掛け声をあげ、巨大マリモにつかみかかる!
「マーリーモー」
必死で防戦する巨大マリモに遠慮仮借なくキックやパンチを浴びせる巨人!
ガッシィィ
巨人はひるんだ巨大マリモに力強くつかみかかる。
「ヘウアッ」
巨大マリモを頭上に持ち上げ、掛け声と共に大空へと飛び上がる巨人!
その姿が遠く離れ黒い点のようにしか見えなくなったころ、その点が凄まじい光となり、そしてだいぶ遅れて爆音が響く。
あまりに唐突でしかも急な展開に、僕も他の人たちも自衛隊もしばらく凍りついていたが。
なにがなんだかよくわからないけど、
「日本は助かったんだ!」
僕は快哉を叫ぶ。
「そうなの?よかったじゃない」
由子さんが気楽にいう。
「って由子さん!?どこに行ってたの?見えなくなったから心配してたんだよ!!」
いつの間にかすぐ横に立っていた由子さんについ口調を荒げてしまう。
「いやーごめんね。やっと終わったぁ、って思ったらこんなのが目についたからさぁ」
由子さんはそう言って手をさし出してくる。
その手の上にはミニ木彫りの熊が2つあった。
「ほら、これでお揃い。いいお土産になるでしょ?」
そう言って笑い出す由子さん。
「それどころじゃなかったんだよ!巨大マリモがまだ死んでなくて、謎の巨人が現れて……」
僕はカラカラと笑い続ける由子さんに謎の巨人の雄姿を熱く語ったのだった……



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