こ〜ゆ〜のはお好き?



「こう?」
ののみはそれをゆっくりと咥え込む。
「そう、その調子」
速水が答える。
ののみは口に含んだものに舌を這わせる。
下から上へ。唾液をまとわりつかせ、少し窪んだ所でチロチロと舌先を動かす。
チュ、クチュ
ののみが頭を上下させ、口の端から水音が漏れる。
ネットリと吸い付くように舌を這わせた後、口いっぱいになった唾液を飲み込む。
こくっという音が響き、彼女の白く小さい喉が動く。
チュポッ
ののみはそれから口を離し、マジマジと見つめる。
「ほら、もうこんなになってるよ」
速水の声に無言で頷き、彼女は真摯な面持ちでもう一度それを咥え込む。
「あ、歯を立てないように気を付けてね」
彼女にそれは届いたのか。
時にはくすぐるように、時には包み込むように舌を使い、グチュグチュという音が響く。
強く吸いながら頭を動かし、添えている手もそれに合わせて動く。
唇で強くしごきながらそれを出し、部分部分にキスをするように口をあてる。
「もう、すぐだよ」
ののみはそれに答え、ピンポイントで舌を動かし始める。
その時だった。
「お、お前ら何やってんだよ!?」
偶然通りかかった滝川が大声を出す。
立っている速水の後ろ姿。その向こう側にしゃがんでいるののみ。
辺りに響く水音。
こ、これはどう考えても……滝川は頭に血がのぼるのを感じる。
「どうしたの?」
速水が不思議そうにふり向く。
それと同時にののみの姿が見える。かわいく舌を出し、あめをなめているののみが。
「ふえ?」
首を傾げるののみ。
「あ、そうだ。一緒にべっこうあめ食べる?今ちょうどののみちゃんに型抜きを教えてあげてたんだけど」
そういって速水はべっこうあめの袋を取り出す。昔、縁日でよく見かけた動物型のやつだ。
「あ、いや、いい。なんでもない。んじゃ」
滝川は顔を真っ赤にし、そそくさと去っていった。
「どーしたんだろーね?」
「さぁ?」
なんとなくわかるが、速水はののみにそう答えておいた。

「ちくしょー、あせったぜ」
滝川は歩きながら毒づく。
あいつら学校であんな、まぎらわしー事しやがって。
一瞬期待しただけにショックひとしおである。
「ん?」
少し先に何か落ちている。
近付いてみると、それはいかがわしい形をしていた。
長細い、ゴムでできたもの。
あたりには白い粘液がこぼれている。
「こ、これは……まさかっ!?」
師匠から話だけは聞いている、『明るい家族計画』!?
滝川はなんとか後半をのみこむ。
「こんな所で……すげえ」
場所は校舎裏。
滝川の妄想がスタンピートする。が、ゆっくり浸っている暇はなかった。
「んんっ!!」
くぐもった声が響く。
木陰のほうからだった。息を殺して近付く滝川。
「まったく……これで何回目だと思ってるんです?」
「しょうがないでしょう?一度にこんなにたくさん出てきたら当然じゃない」
話し声が聞こえる。
この声は善行と原だ。
滝川の鼓動が地響きクラスにまで大きくなる。
そっとのぞきこむと、顔一面に白く粘ついたものをつけた原が見えた。
「ん、けどおいしい」
口のまわりのそれを指でぬぐい、それを口に含んでそう言う原。滝川の血流の70%が一ヶ所に集う。
チュパッ、と音をたてて抜かれた指、濡れた唇、やや紅潮した原の顔を彩る白濁液。
地面には『明るい家族計画』らしきもの。
ゴソッ
「誰です?」
善行が眼鏡をクイと上げ、滝川の方を向く。
思わず音をたててしまったのだ。(なんの?)
「あ、いや、おれ、その、えっと」
「あら、恥ずかしい所を見られちゃったわね」
原が顔をぬぐいながら言う。
善行が滝川の方に手をのばす。手の平の上には何か丸いもの。
「あなたもどうですか?風船アイスですよ、小さい頃よく食べませんでしたか?」
「え?」
「そうそう。私、いっつも最後に破裂させちゃうのよねぇ」
原はそう言って、滝川の思う所の『明るい家族計画』をつまみ上げる。
「まだ数はありますからよければどうぞ」
善行が、さあ、とまるいものを滝川に手渡そうとする。
「結構ですぅー!」
滝川は泣きながら走り去っていった。
「変な人ですね……」
「いつもあんな感じじゃない?」
原はさらりと言ってのける。
善行はそれで納得した。

「どーなってるんだバカヤロー!」
滝川は泣き叫んだ。
原・善行のもとを走り去ったあとも、彼は苦難の道を歩んだ。
「早く暖めて」
という声が聞こえてのぞくと、昔なつかしの暖めると絵の変わるシールを暖めていたり、
「……ドロドロだ」
「アア、そんなにシたら」
でのぞくと、粉と水をネリネリする練り菓子だったり。
なんで今日に限ってみんな菓子を食べてるんだ?しかも紛らわしいし。
別段直接被害を被ったわけではないが、疲労感は半端ではなかった。
彼はすかさず裏焼きそばパンをとりだし頬張る。裏っぽい(?)絶妙な味わいが心の穴を少し埋める。
訓練後の分、買い足しとくか。
滝川は購買部へ向かう。
そこで彼は、かじりかけの焼きそばパンを地面にたたきつけた。
「チクショー!そーゆー事かーっ!」
購買部のウインドウには『なつかしの駄菓子フェア!貴重なお菓子を皆で楽しもう!』と張り紙がされていた……
「朝気付いてりゃこんなに疲れずにすんだのにー!」
滝川の魂がほとばしる。
でもな、滝川。
知ってても一緒だったぞ、絶対。



戻る