微笑みが爆弾



全てのものには始まりと終わりがある。
新しい生命はこの世に生まれいで、古き生命は死を享受する。
形あるものは必ず崩れ、新たなるものへと変化する。それ故生まれた日を特別にあつかい、祝う。
それは第5世界でも同様だ。
世界はループしている。
だからどうしたというのだ?
彼らは生まれ、いずれは死んでいく。たとえ我々が「見る」事ができるのが1999年の3月4日から5月10日までだけであっても。
ならばそれを逆手にとろう。
第5世界の日付=時間軸とは別に、「時」が流れているとして。これ以降、ループ中の第5世界の日付がいつなのかは明記しない。
だか、彼らと「あなた」の「時」は10月4日である事だけは伝えておこう……

「ああ、話が……」
またか。
とりあえずかたちだけは喜び、何をもらったのか確認する。
鰯の南蛮漬けだった。
「……はあ」
ため息がでる。
今日は朝からプレゼント責めになのだ。しかもそのプレゼントというのが……
速水は自分の持ち物を点検してみた。
<舞の手作り弁当> わけあって昼に食べる事が出来なかった。体力気力プラス150。
<舞の靴下> 宝物だ。中村からもらった特殊なビニール袋に保管してある。
<鰯のつみれ> 朝一に田辺からもらった。悪夢の第一歩。体力+10。
<鰯の天ぷら> 滝川からもらった一品。どうやら味のれん製のようだ。体力+30。
<鰯のキーホルダー> 田代からもらった。彼女に限らず、誰も、「何故鰯?」の問いに答えてくれない。魅力+10。
<生鰯> 原からもらった。可愛くリボンがかけてある。魅力−10(臭い+255)。
そして今もらった<鰯の南蛮漬け>。
更に、昼に食べた<焼き鰯弁当>は若宮からもらったものだ。
みんな好意でプレゼントをしているんだろうか?いや、好意に決まっている。
速水は自分を励まし、とっとと帰宅する事にした。

約10分後。
持ち物に<鰯の造り>と<たたみいわし>、<アンチョビー>が追加された速水は、校門前で呆けていた。
「何故鰯!?」
いきなり虚ろな目で何もない空間にツッコミを入れる。
心にかなりの傷を負っている証拠である。
だから、舞が校舎の方から走ってくるのを見た速水は、
「いわし?」
とだけつぶやいてブルブル震えだした。
だが舞はそんな事おかまいなしに速水の前でとまり、
「受け取れ」
とだけ言って小さな袋をさしだす。
「ぼぼぼ僕も頑張らないとね」
速水は最後の力をふりしぼってそれを受け取る。
それは<地獄クッキー>だった。
「きょ、今日はお前の誕生日であろう?まわりの者がしきりにプレゼントしているのを見て思いだしてな。偶然にも材料の手持ちがあり、たまたま時間があったので焼いてみた」
舞はそわそわしながら言う。
誕生日!
速水の目に生気が戻る。
だからみんな、あんなにプレゼントをしてきたんだ!
「よ、喜ぶがいい。この戦局では砂糖などなかなか手に入らないからな。じっくりと味わうがいい」
速水は感動した。
恥ずかしがりながらもプレゼントを渡す舞に、そして鰯ではないプレゼントに。
「ありがとう、舞」
速水は地獄クッキーをその場で頬張った。
舞の愛情が口の中いっぱい、いや、全身に広がる。天にものぼる気持ちになる。
不意に視界がぼやけ出した速水は気付いた。
誕生日=10月4日。104→イワシ。
「し、しょーもな……」
もんどりうって倒れる速水。
鰯攻撃で疲弊した心身に地獄クッキーは少々キツかったのだ。
だが、その味は速水の心にしっかり染みていただろう。



戻る