ガンパレード・マイペースV



瀬戸口は走っていた。小隊内では見せた事のないすさまじい形相で走っていた。
こいつは全て俺の責任だ。
ののみが滝川について行ったと聞いた時、彼は目の前が暗くなった。
何故、あの時気が付かなかったんだろう?
今朝、芝村がネコのコスプレをしていた時に。
「ののみもネコさんのかっこしたいなぁ、めー?えへへ」
と、かわいい恋人が笑っていた時に。
すぐそばにいた、滝川や遠坂がののみを一瞬盗み見た時に。
滝川とののみは校門のほうへ向かったと芝村は言っていた。
おそらくは既に校外にでているだろう。
急がなければ。
校舎裏へさしかかる。校門の方を見るが誰もいない。
とにかく外へ出て足取りを探さないと。
校舎裏を一気に駆け抜けようとしたその時、それは飛んできた。
とっさに踏みとどまる瀬戸口。すぐそばをかすめ飛んだのは……靴下!
「あんたに恨みはないが……」
木陰から姿を現す幅の広い男。
「タァイガァの頼みですからね」
その横に並ぶ痩身の男。
「悪いがここから先は行かせん。ソックスバトラーの名にかけて!」
「そして私がソックスバット。ククク。ハハハハハハッ」
言って靴下を構える2人。
「中村と岩田!?クッ、やるしかないのか?」
中村が伝説の一年靴下を手にとびかかる!
難なくそれをかわした瀬戸口の肩に靴下がフワリと舞いおちる。岩田が放ったものだ。
「くぅっ!」
すぐさま靴下をふり落すが、その際その殺人的な臭いを一息吸ってしまう。それでも、続く中村の連撃をかわしたのはさすがであった。
「どうも……こういうのは性にあわないねぇ」
息があがったのか膝をつく瀬戸口。
むろん中村がそれを見逃す筈がない。
「これで終わりだっ!」
ガッキィィンッ
右陰刀の構えからの必殺の一撃は、しかし瀬戸口にはとどかなかった。
先程の振り落としたはずの靴下で一年靴下をうけとめる瀬戸口。
膝をついたのは靴下を拾う為、そして中村を誘う為だったのだ。
「バカなっ!?」
動揺する中村の手から一年靴下をからめとり、岩田めがけて投げつける。
「ソーックスッ!!」
血を吐きながらもんどりうって倒れる岩田。
……
しばしの刻が流れ、先に動いたのは中村の方だった。
「……どうやら俺達の負けのようだな」
スッと木陰へと移動する中村。
「いい事を教えてやろう。東原は新市街にいる。せいぜい急ぐんだな。行くぞ、岩田!」
「フフフ、わかりました」
倒れていた岩田がスックと立ち上がる。
一陣の風。
瀬戸口が一瞬目を閉ざした間に2人の姿は消えていた。
一枚の靴下も残さず。
「新市街、か……」
心の中で中村に礼をいい、瀬戸口は再び走り出した。

「ここまで来た、という事はあの2人を倒したんですね」
遠坂が淡々と話す。
新市街・ちょうど裏マーケットへの入り口の前で、遠坂と瀬戸口は対峙していた。
「ですがもう手遅れです。彼女は既に着替えを始めています。そちらでね」
小さな路地の入り口に滝川が番兵のように立っている。その奥にののみがいるのだろう。
立っているのが滝川で良かったのかも知れない。彼ならば、たとえ目的が同じでも遠坂に加勢する事はないだろう。
そう考え、瀬戸口は遠坂だけに意識を集中する。
「どうしても邪魔する気かい?」
彼の目がわずかに赤く光る。
「邪魔をしているのはあなたの方でしょう。私は彼女の可能性を広げたいだけです。あなただって、可能性を狭めている人は嫌いでしょう?」
そういう遠坂の目が一瞬瀬戸口と同じように、いや、より禍禍しい赤色をたたえる。
一瞬。
常人では見切れないような速度で瀬戸口が動き、影が1つになる。
「バカなっ……!?」
一体何が起こったのか。遠坂はただ一言そう叫び、ゆっくりと地に伏した。
「ふうっ」
軽く息をつく瀬戸口。その瞳はすでに普段と変わらない。
あとは滝川か。楽なものだ、などと考えながら路地の方を向く。
と、血の海に倒れる滝川の姿が目にとびこむ。
「!?」
大量の血にまみれながらもその表情は『至福』と語っている。
間違いない。覗いたのだ。
「……!!」
よっぽどトドメをくれてやろうかと思ったが、この顔を見るとそんな気すら失せる。
なんにせよ悪(ロリコン)は消え失せたんだ。危機は去った。
瀬戸口はののみを迎えに路地へ入る。
だが彼は失念していた。遠坂が手遅れだと言っていた事を。
路地に入ってすぐののみと目が合う。
「ふええ……」
ののみはネコグローブをつけた両手を口元にあて、フルフルとイヤイヤをする。
それに合わせてネコミミが揺れ、首輪の鈴がなる。ぶかぶかの体操服も、ブルマに付けられたネコシッポも揺れる。彼女が一歩踏み出し、ネコスリッパがミャーと音を出す。
悪は滅び危機は去った。しかし、彼らのもくろみは達成されていたのだ。
即ち。
体操服を着た東原ののみにネコのコスプレをさせる。
その後、瀬戸口が地面に突っ伏したか、暴走したかは神のみぞ知る……



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