ガンパレード・マイペースU



ミャー、ミャー、ミャー
ミャー、ミャー、ミャー
プレハブ校舎付近で奇妙な音が響く。
音源は芝村舞である。
理由はわからないが、ネコ耳・ネコグローブ・ネコスリッパ・ネコシッポという完全武装で登校して来たのだ。
この音は芝村が真摯な面持ちで足を踏みおろす度にネコスリッパから発せられている。
本来なら問題となるであろうこの行動も、一部の良識派な人間以外はさして気にとめていなかった。
それどころか、ののみはネコグッズをうらやましがり、男子数名は鼻の下がのびきっている始末である。(滝川に至っては鼻血のオプションつき)
そんな中、唯一人焦燥に駆られる者がいた。
原素子である。
2組の戸の陰から芝村をのぞき見、親指の爪を噛む。
「これは本気を出さないといけないわね……」
そう、たとえ相手が芝村の一族であろうとも、小隊一のアイドルの座をやすやすと譲るわけにはいかないのだ。
原の瞳が怪しく光る。
むろん。
彼女は知らない。芝村が、ネコ好きが高じてコスプレに至っただけだという事を。
そんな事はお構いなしに、原のNo.1アイドル死守プロジェクトは動き出したのであった。

ミャー、ミャー、ミャー
ミャー、ミャー
芝村の足音が遠ざかるのを確認し、原は目配せをする。視線の先の男は大きく頷く。
「頼んだわよ」
「はっ!まかせてください!」
男は若宮だった。原に心酔する大男は食堂兼調理場をとびだす。
「さて、それじゃ私も……」
原は着替え始める。
既に辺りは暗く、調理室の中を外から窺うことは出来そうにない。
「いやーすまんすまん、ちょっと用事を思い出した。中で待っててくれんか?」
若宮の声が聞こえてくる。原が着替え終わるのとほぼ同時であった。
「はあ……?」
ポヤヤンとした声が響き、調理室の戸が開く。
「……誰だ?」
室内は暗く、原は微動だにしていない。
それなのに、部屋に入ったばかりの速水は鋭く問う。
「あら、さすがね」
原はわざとゆっくりと歩く。速水という男がただのポヤヤン君ではないことを知っているからだ。
「あ……原さん……ですか?」
速水から抜き身のような気が消える。
「悪いけど戸を閉めてもらえるかしら」
そう言いながら原は速水へ近付く。
「え、はい、ってええぇ!?」
戸を閉め、振り向いた速水の目と鼻の先に原が立っていた。
「速水君、あなた確か私のファンクラブの会員だったわね?」
唇が触れあいそうなくらいの距離で囁く原。
「えと、あの、若宮戦士に誘われただけで」
「やっぱり仔猫ちゃんの方が好きなの?」
速水から数歩離れる原。闇に目がなれた今その姿がはっきりと見てとれる。
ただでさえ魅惑的な体にチャイナドレスをまとい、首元には猫の首輪。上気した顔、潤んだ瞳。いつもより285程魅力upである。
これに抗うのは煙幕弾頭なしでスキュラの大群を相手にするより難しい。
「たまには大人の猫なんていかが?」
ゴクリ
返事すらせず立ちつくす速水の胸に「の」の字をなぞりながら、器用に服を脱がしにかかる原。
「……いい度胸をしているな、速水」
突然、冷たく響く芝村の声。
音もたてず戸も開けず、芝村舞は調理室内で仁王立ちしていた。
「ま、舞!?」
「不穏な声が聞こえるのでテレポートしてきてみればこれか。盗聴器を仕掛けておいて正解だったようだな」
すさまじい怒りの波動が舞から放出される。だが、ネココスプレで怒っても見た目はかわいいだけである。
「こ、これは、その、原さんが……」
怒られている身ではそうでもないらしい。
「言い訳は、いい。2人とも動くな、その素っ首叩き落してくれる!」
「くっ!ここまでね、若宮!」
「はっ!」
原が叫ぶと同時に若宮が調理室の戸を蹴破って乱入してくる!
「せっかく速水君をオトしてあなたを無力化しようとおもったのに。残念ね。こんな結末になるなんて」
どこからともなくシャーペンを取り出して構える。その姿に一部の隙もない。
速水をはさんで睨みあう芝村と原・若宮。
「ぼ、僕は……?」
一触即発!
しかし、最悪の事態への扉はひらかれなかった。
「何をやってるんです……」
戸を蹴破る音を聞いてかけつけた善行司令の鶴の一声のおかげである。
「全員、追って連絡あるまで自宅謹慎!」

その後一週間の謹慎期間中、小規模の幻獣進攻が1回あっただけなのは人類にとって幸運なことだったのだろう。



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