ガンパレード・マイペースT



芝村舞はプレハブ校舎屋上で悩んでいた。
既に彼女の気持ちは決まっている。しかし、周囲の視線を全く無視するのは容易ではない。
胸が苦しい。
ふと、舞は目を移す。
裏庭で、誰が見ている訳でもないのに岩田がいつもの踊りを続けている。
隊長室の近くでは、原がストーキング中である。
そうだ。何を悩んでいるのだ。
芝村の末姫とあろうものが情けない。
「決めた。私は私の信じる道をゆく」
舞の表情から迷いが消える。
嵐の前触れであった。

「待て、速水」
ハンガー二階で複座型の調整中、速水は作業をとめられた。
「話がある。ついて来い」
相手はもちろん舞である。
恋人の頼みを無下に断れる訳がない。
「うん、いいよ」
速水は答えた瞬間テレポートで連れさらわれる。
いきなり、なんともいえない甘い雰囲気がただよう。テレポート先は倉庫だったのだ。当然2人以外には誰もいない。
見ると舞の頬がかすかに赤い。
速水の鼓動が早鐘のようになる。
「い、いいと言うまで後ろを向くがいい」
「う、うん」
素直に後ろを向く速水。その後ろからは、プッ、パチンと何かをつけるかはずすような音。続けて衣擦れの音。
更に高まる速水の鼓動。
「い、いいぞ」
舞がそう声をかける。
にやけそうな自分を叱咤し速水は精一杯りりしい顔でふり向く。
羞恥の為か、耳まで赤い舞が目の前にいる。
ネコ耳をつけ、ネコグローブをはめ、ネコスリッパをはき、キュロットにネコシッポが結わえてある舞が。もちろん制服の上から。
「っ!?」
想像と現実のギャップに声も出ない速水。
「この姿、ど、どう思う?」
「え、えっと……かわいいと思うよ?」
とっさにポヤヤンスマイルで切り抜ける速水。そして気付く。
なるほど、そういうプレイか!

「ああ、ご主人様、思うさま好きにしてくださいぃ」(妄想)
「んん〜?ネコが言葉を話しちゃダメだろう?ほら、ちゃんと鳴いて」(妄想)
「に、にゃあん」(妄想)
「よーしいい仔だ。それじゃあもっと鳴かせてあげるよ」(妄想)
「に、にゃあ、あ、そんな、あぁ」(妄想)
「ネコはそんな声で鳴かないよ?全く、言うことをきけないような仔はこうだっ」(妄想)

「なにをやっているのだ?」
「はっ!?」
よだれをたらしてウフウフ笑っている自分に気付く。
「いや、えと、別に……」
「ふ、おかしな男だな。まあいい。こうして速水からの御墨付きももらったのだ」
舞は少し恥ずかしそうに速水を見る。が、本人は自分の失態を悔やんでそれには気付かなかった。
「私は明日からこの姿で登校する!」
「なっ!?」
舞は声高らかに宣言し、速水は心底驚く。
こんなネコライクな姿で登校だって!?
それじゃあまるで……。そこまで考えて気付く。
なるほど、そういうプレイか!

「今日は皆の視線が痛くて……私もう」(妄想)
「ふふ、もう、どうしたんだい?言ってごらん」(妄想)
「そんな、恥ずかしい……」(妄想)

「全く、今日はどうしたというのだ?」
「はっ!?」
自分の肩を抱いてクネクネ悶えてるのに気付く。
「えっと、その、舞って結構大胆なんだね」
「ふ。愛するものの為ならば当然だ」
舞はことさら胸をはって答え、速水が逆に顔を赤らめる。意外と直球に弱いようだ。
「そう、愛するが故に愛するものになりたい、コスプレ魂が私を駆り立てるのだ!」
「そんな、うれしいよ舞……」
速水は感動し、心の中で舞の言葉を反芻する。
疑問→考察→間
「舞の愛するものって……ネコ?」
「うむ。ネコだ」
「ふわふわの?」
「そう。ふわふわの」
「……僕は?」
「な、何を」
ズイとつめよる速水。目には涙がたまっていたりなんかする。
「僕の事は?」
「そ、それはまた別の次元の話であろう」
「ネコと僕、どっち?」
「それは、もちろん……」
ぼそぼそつぶやく舞。
「よく聞こえないよ。僕のことをどう思っているの?」
うながされ、舞は速水の耳元で何かささやく。
その後、2人は楽しい時間を過ごした……

ミャー、ミャー、ミャー
翌日、尚敬高校内では奇妙な音が鳴り響いていた。
「本気だったんだね」
「当然であろう」
近くにいる者は皆、2人のほうを呆然と見ている。
「けどさ」
「なんだ?」
速水は舞を見つめる。
少し離れた所で、善行がやけに深みのある表情をしているのが視界に入る。
「せめてネコスリッパは音の出ないやつにしない?」
「うむ、それは考えておこう」
ミャー、ミャー、ミャー
舞はあまり考えるつもりがなさそうに答え、軽快な足どりで教室へと向かい続けた……



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