FIGHT ON!



振り上げた拳を振りおろす。
たったそれだけの行為。
目の前の戦車はグシャグシャに潰れる。
彼にとっては造作もなく、おもしろくもない作業だった。
ひしゃげた鉄塊から逃げ出す人間に、ゴブリンリーダー共が群がる。
見飽きた光景だ。
彼はつまらなさそうにまわりを見る。すこし離れた所で一台の戦車が集中砲火を浴びていた。
じきに人間側が撤退を始めるだろう。そうなれば彼の出番はない。
キメラやゴルゴーンの独壇場だ。
と、ふと視界の隅に見慣れない影がうつる。
その影を目で追おうとした矢先、無数のミサイルが飛来する!
彼は咄嗟に頭を腕で覆う。立て続けにおもる爆発音、ゴブリンリーダー達の断末魔の声。
爆発音が止み、状況を確認する。
彼自身は被弾していない。だが、まわりにいたゴブリンリーダーの数は激減していた。
そしてやや離れた所に見慣れない姿。いや、その形状自体は見慣れている。人間だ。
ただ、ソレは彼と大差ないくらいに大きく、背中に大きな箱のようなものがついていた。
こいつだ。
彼は大きく一歩踏み出す。
ソレが手にしていた銃器が火を吹く。
数発被弾するが、彼の厚い装甲に阻まれ、さしたるダメージではない。
こいつが俺の敵だ。
戦場で初めて巨大な人型の敵に出会った彼は、直感的にそれを悟る。
効果が低いと知ったのかソレは銃器を捨てて刀を構える。彼は知っていた。それは斬るための武器だという事を。彼が最も得意とする近接戦でないと使用出来ない武器だという事を。
と、ソレが一足跳びに間合いを詰める!
ガギッ
振りおろされた刃を腕で受け止め弾く。が、彼が弾いた刃を、ソレは空中で切り返す!
ゾッ
強引な一撃だったためか、刃は彼の腹部を浅く薙ぐに終わる。
傷にかまわず彼の放ったパンチを、それはわずかに動くだけでかわす。
強い。
彼は戦慄と同時に奇妙な感覚におそわれる。
敵が初めて戦う形状だからか、互角に渡り合う初めての相手だからか、まるでこちらの動きが読まれているように感じるのだ。
敵は彼の動揺を見透かしたのか、再び一足で間合いを詰めてくる。
彼はその動きにあわせて拳をくりだす!
ゴッ
当たったかのように見えたその一撃に手応えはない。ソレはすぐさま右に跳びすさって回避していたのだ。
更にソレは、着地と同時に斬りかかる!
かろうじて刃をくぐり、向きあう彼とソレ。
ソレはゆっくりと刃を振りあげる。
彼もそれにあわせて両の拳を構える。
ソレが動いた瞬間かれは頭上を守るように片腕を上げ、もう一方の腕を次に繰り出すパンチのために大きくひく。
斬撃を受けとめた後に渾身の一撃を放つ。そのつもりだった。
だが、上にあげた腕に衝撃はこず、代わりに腹部に灼熱感。
ソレは振り上げた刃を一瞬で引き戻し、突きを放ったのだ!
この俺が、負ける?
痛みでも恐怖でもなく、驚きが彼を支配する。
ソレは、尚も慎重に間合いをとる。まったく気を抜くつもりはないらしい。
これで終わりなのか?
悔しさがこみあげる。
やっとめぐり合えた好敵手と、たったこれだけの時間で別れるのか?
ソレが再び刃を振りあげる。
ドウンッ
ソレのすぐそばで爆風が巻き上がる。
ドウッドウッドウッ
更に続けざまに怒る爆風。
味方、キメラの砲撃だ。
砲撃に気をとられ、ソレに隙ができる。
彼はすぐに撤退を始める。
ソレは彼の退却に気付くが、砲撃に足を止められて、動く事ができない。
彼はなんとか撤退ラインまで移動し、後ろを振り返る。
距離と爆風のためほとんど何も見えないが、アレがこの程度で倒せるとは思わない。
彼は向き直り、完全に撤退する。
今回の敗北を認めて。そして、次にアレに出会うとき、勝利するために。



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